わたしたちのこと
船上生活をしていたわたしと心理学者の夫レビーは、太平洋をさらに南下する航海へ出
発する予定でした。でも、ある時、海の神様からこどもを授かったことを知らされ、小さ
な島へと上陸し、自分たちの手で家をたてることにしたのです。…月日は流れ、ひとりめ
の女の子のあと、ちょうど三十六ヶ月目にふたりめの女の子を授かりました。「ナエハ」
と「ヒナノエ」。それがわたしたちふたりのあいだに誕生したそのこどもたち、きらかい
とたまらかいの、ハワイアン・ミドルネームです。
ふたりの出産予定日は不思議なことに三十六ヶ月違いのまったく同じ日、三月一日でし
た。そしてはじめの子ナエハが誕生したのは、雪景色の美しい町で生まれたわたしの実母
と、それから夜の浜辺でこどもを産み、波でその子を洗ったという奇跡のような人であ
り、わたしがこの島で母と慕う人のバースデーと同じ十八日でした。そして、ふたりめの
子は、祖国の「ヒナ」祭り、三日の日に、月と緑の女神「ヒナ」の子であると伝えられる
このモロカイ島の、霧雨光る、海を見わたす丘の上で誕生しました。
はじめの子に与えた名、ナエハとは「痛み」という意味。でもその痛みとは、美しいも
の愛しいものにふれたとき、まるでハートの奥をキュッと聖なるものに掴まれたように感
じるその痛みのこと。そして、ふたりめの子ヒナノエのノエは「霧雨」。雨は天からの祝
福…。さまざまな雨を、それぞれの名で呼び、さまざまな痛みにさえも、それぞれの名が
ある島の言葉とは、なんと深く煌めいているのでしょう。
…「ひかり」は、生まれています。永遠の中のとある日、今日という日にも…。
わたしたちは日々というカンバスに絵描きます。そうです。この星のとびきり幸福な未
来に向かって…。
山崎美弥子 Miyako Yamazaki